『飛べない鳥の話』
ショートショート・ミニ小説

飛べない鳥の遺書

 死んだ父と母も“飛べない鳥”だった。

 天気の良い日に散歩をしていると、十羽くらいの鳥たちが池のほとりで談笑をしていた。
 話を聞くと《飛べない鳥の会》というサークルだって。

飛べない鳥の会

 自分も生まれてから一度も空を飛んだことがない、と皆に話をした。
 「僕達もみんな飛べないんだ。そんなこと気にすることないよ。」「そうだよ、気にしないで一緒に遊ぼうよ。プラス思考でいこう!」

 日が暮れるまで、猫のミーニャやブラウのドジ話や、ドッグレースでゴーロが優勝した話を聞いた。ゴーロはここ三年連続で一位を独占している最高の選手だ。

 父と母が死んでからボクは毎日寂しかったけど、この日はとても楽しめたんだ。
 
 それから一週間、毎日出かけて《飛べない鳥の会》のメンバー達と話をしたり、ドッグレース観戦をして遊んだ。
 楽しかったけれども、日が暮れてみんなと別れたあと、何か寂しさを感じた。

 数日後、そのことをメンバーのジョニーに伝えた。すると彼は「一人で暮らしているから寂しいのさ」と答えて「そうだ、だったら僕らと一緒に暮そうよ」と提案してくれた。もちろん喜んでokしたよ。

 みんなと暮らして数ヵ月間は、この生活を楽しんだ。

 楽しむ分だけ寂しさが消えるような気がしたけど、そのうち布団に入ると強い虚しさがあることに気付いた。

 ある日、共同生活の場から離れた。《飛べない鳥の会》に顔を出すのも減らした。皆といるのが疲れるような気がしたから。

夏の空と草原
制作サポーターSotheiより)

ほんとに楽しいこと

 一人で草原に寝そべって、空を見ていた。
 飛んでいる鳥が見える。「いいなーすごいなー」と自分も起き上がって、羽ばかたせながら走ってみた。飛べないけれど楽しかった。この日はとても、よく寝られた。

 四日目、体が浮いたような感じがした。風がとても強かったので、その為かもしれない。けれども、さらに楽しく、夢中になった。この日ぐらいから、 《飛べない鳥の会》のメンバーとは会わなくなった。

 数日がたって、十歩くらい飛べるようになった。日を追うごとに、飛べる距離が長くなった。ボクは“飛べる鳥”なった。

大空を飛ぶ鳥

ほんとの友達

 とても天気のいい日、いつものように楽しく飛んでいると、ヒーロビという名前の“飛べる鳥”に「高く飛べないんだ」とからかわれた。
 やな奴と思ったけれど、言われてみれば、ボクは高く飛ぶことを考えていなかった。
 「一緒に飛んでみよう。ついてきな。」

 ヒーロビは、高く飛ぶ方法や疲れない飛び方など、知らないことを色々教えてくれた。
 「ヒーロビはよく知っているね。」
 「小さい頃に皆から、いっぱい教えてもらったから。だから、知らない人に教えてあげるんだ。」

 友達ができたと思った。ボクのダメなとこ厳しく指摘するけど。口喧嘩もするけど。
 「今日は、ありがとう」とお礼して家へ帰った。
 最近は毎日楽しいし、充実していた。そして、ぐっすりできる。

 これは1998年9月のお話。