『四つ目の席』

以下は、人間が与えたテーマに対して、AIが作成した小説。リライト前の文章です。

二〇三三年。

「AI実行率98.7%」

オフィスの壁に表示された数字を見ながら、佐伯は自分の席を見つめていた。

かつて会社には四種類の人間がいた。

決める人。
実行する人。

考えを生み出す人。
与えられたことを忠実にこなす人。

その組み合わせで、職場は四つの役割に分かれていた。

「考え、決める人」
「考え、実行する人」
「従い、決める人」
「従い、実行する人」

佐伯は長年、「考え、実行する人」だった。

上司が思いつかない改善案を出し、資料を作り、プログラムを書き、現場を走り回る。

「それ、面白いね」

そう言われることは多かった。しかし最後に決めるのは部長であり、成果として評価されるのも部長だった。

そんな会社に、対話型AIが入った。

最初は議事録を作るだけだった。

次に企画書を書き始めた。

プログラムも組み、画像も作り、契約書まで整えるようになった。

佐伯は喜んだ。

「これで面倒な作業が減る。」

だが半年後、人事部から組織改編が発表された。

「企画実装課は解散します。」

理由は単純だった。

「アイデアを実装する役割はAIで代替可能と判断しました。」

部長が説明する。

「皆さんの提案はAIが形にします。人間は方向性を決める人と、AIへの指示を正確に実行する人だけで十分です。」

誰も反論しなかった。

いや、できなかった。

佐伯は新しい部署へ異動した。

仕事は「AIオペレーター」。

部長が決めた方針をAIへ入力し、出てきた成果物を提出するだけ。

改善案は不要。

工夫も不要。

むしろ余計な工夫はエラーの原因として減点対象になった。

ある日、佐伯は思わずAIへの指示を書き換えた。

「利用者の高齢化を考えると、この画面構成の方が使いやすい。」

翌日、品質管理AIから通知が届く。

「指示逸脱率 4.2%。再教育対象。」

上司は困ったように笑った。

「佐伯さん、気持ちは分かる。でも今は決める人が考える時代なんだ。」

「私は決めていません。」

「そう。でも考えたでしょう?」

その一言で、佐伯は初めて理解した。

会社は「考える実行者」を求めなくなったのだ。

考えるなら決める側へ行け。

決めないなら考えるな。

そういう時代になっていた。


数年後。

新卒採用の説明会。

人事担当者が学生へ語る。

「当社では主体性を重視しています。」

佐伯は少し笑った。

その後に続く説明は、以前とは違っていた。

「主体性とは、自分で決める立場になることです。決定権のない職種では、AIを活用し、決められた品質を素早く実現できる人材を歓迎します。」

会場では誰も違和感を抱かなかった。

それが当たり前になっていた。

会社にはまだ四つの席が残っていた。

だが実際に使われているのは三つだった。

「考え、実行する席」だけが空席のまま、何年も誰も座らない。

その席は撤去されることもなく、資料にも載らない。

誰も必要だと言わないからだ。

説明会が終わり、一人の学生が佐伯に声をかけた。

「質問があります。」

「どうぞ。」

「私は、決めるほど偉くはないんですが、言われたことだけをやるのも苦手です。改善するのが好きなんです。」

佐伯は答えに詰まった。

昔なら、その資質を歓迎した。

今は違う。

「……そういう人は、どうすればいいんでしょう。」

学生は不安そうに尋ねた。

佐伯は窓の外を見た。

AIが設計した自動運転バスが、静かに街を走っている。

効率は以前よりはるかに良い。

利益も増えた。

誰も困っていない。

だから誰も気づかなかった。

かつて現場で生まれていた小さな工夫や、偶然の発見、思いがけない改善は、評価されないまま消えていたことに。

佐伯は学生に言った。

「会社の中では、居場所を見つけるのは難しいかもしれない。」

学生はうつむいた。

「でも。」

佐伯は続けた。

「時代が変わるたび、いちばん最初に必要なくなる人と、最後まで必要とされる人は違う。そして、その次の時代を作るのは、いつも『今は必要ない』と言われた人たちだった。」

学生は顔を上げた。

その言葉が正しかったのか、慰めだったのか、佐伯にも分からない。

ただ一つ分かっていた。

AIが仕事を奪ったのではない。

人間が、「考えながら実行する」という役割を、自ら不要だと決めたのである。

© 制作サポーターSothei / たまプロ新聞