かつて、たまプラーザには巨人伝説が存在した。駅北口を出て東急百貨店を正面に左折し200mほど歩いたところにあるセブンイレブン。ここに2メートルを超す大男が現れるという噂が立ったのは30年ほど前のこと。何を隠そう、私はその現場を目撃している。自動ドアを屈みながら入ってきて、店内を悠然と闊歩しながら買い物をする姿に居合わせたお客さんは誰もが口をポカンと開け、慌てて通路を譲っていた。なんのことはない、すぐ近くに日本電気(NEC)男子バレー部の寮があり、選手がたまに買い物にやって来ていたのだ。
それから数年後、バレーボール選手との遭遇を遥かに超える衝撃的な出来事があった。
レンタルビデオ店で
セブンイレブンからさらに200mほど坂を上ったところ、駅前通り商店街の入り口にレンタルビデオショップがあった。そこでビデオ(まだDVDではなかった)を選んでいたときのこと。棚の向こうに人の気配を感じた。棚に並ぶビデオの隙間から何気に覗くと、紺色のジャケットと白いワイシャツが見えた。ちょうど鳩尾のあたり。大柄な店員さんが脚立にのって在庫整理でもしているのだろうか…?いやいや、それを打ち消したのが、その大きな胸板。只者じゃない!後ずさりして見上げると、棚の上に黒髪が見えた。その黒髪はそのまま横に移動していく。脚立にのったままスムーズに移動できるわけながい。固唾を呑んで見守っていると、黒髪は棚の角を曲がりこちらの通路に姿を現した。
目を見張り、喉から飛び出る声を必死にこらえ心の中で叫んでいた。
ジャ、ジャ、ジャ、ジャンボ!ジャンボ鶴田だ!
憧れのプロレスラー、ジャンボ鶴田さん!
こちらに来る。圧倒的な威圧感に思わず「す、すいません」と謝りながら道を譲っていた。
あの時の感動は今も忘れない。
「いけー!馬場―っ!立て!小林!」
小学生の頃、テレビのプロレス中継に拳を振り上げながら声援を送っていた祖父やオジたち。その横に座り、手に汗握りながらテレビ画面に釘付けになっていた。タイガーマスクの漫画を読みふけっていたのもその頃。バックドロップ、四の字固め、ブレンバスター、体育館のマットの上で友人たちとよく技の掛け合いをしたものである。鶴田選手が、ミル・マスカラスやディック・スレーター、ラッシャー木村との熱戦を繰り返していたのは、ちょうどその頃のことだ。
プロレスと田園都市線沿線の思い出へつづく